【BEPS ジャーナル】第七回 SBTIセーフハーバーの技術的整理

Substance-based Tax Incentive(SBTI)

BEPSジャーナル

―「実質ある税制優遇」をどう捉えるか



BEPS Pillar Twoでは、グローバルに最低15%の実効税率(ETR)を確保することが目的とされていますが、その一方で、各国が政策目的で設けている税制優遇措置まで一律に「軽課税」としてトップアップ税の対象にすることは、制度趣旨にそぐわないとの問題意識もありました。こうした背景を踏まえて導入されたのが、Substance-based Tax Incentive(SBTI)セーフハーバーです。

SBTIセーフハーバーは、研究開発促進税制や設備投資減税など、実質的な経済活動を伴う税制優遇措置について、その効果をGloBE計算上、一定程度適切に反映させることを認める仕組みです。単に名目税率や表面的なETRの高低を見るのではなく、「なぜ税負担が低く見えるのか」という背景に着目する点が特徴といえます。

「税金が低い」理由を分けて考える――Pillar Two における「性質ごとの整理」

Pillar Two では、実効税率(ETR)が低いという結果そのものではなく、「なぜ低くなっているのか」が問われます。連結決算上は、税額控除や補助金、差異調整などがまとめて処理され、同じように税負担を押し下げているように見えます。しかし GloBE では、それぞれの性質を区別して評価します。

例えば、実体ある研究開発や雇用に紐づく税制優遇は、SBTI セーフハーバーの対象となり得ますが、単なる税率引下げや実体を伴わない優遇は別扱いとなります。また、恒久差異と一時差異、所得調整と税額調整といった違いも、ETR 計算やトップアップ税の有無に影響します。Pillar Two 対応では、「会計上どう処理しているか」だけでなく、「税負担が変動した理由を説明できるか」という視点での整理が不可欠です。

もっとも、SBTIセーフハーバーは、税制優遇が存在すれば自動的に適用できる制度ではありません。重要なのは、その優遇措置が**Substance-based(実質に基づく)**と評価できるかどうかです。具体的には、雇用、研究開発、設備投資など、企業の実体的な活動と結び付いた優遇であることが前提となります。単なる税率引下げや、実体を伴わないペーパーベースの優遇は、対象外と整理されています。

また、SBTIセーフハーバーは、簡易ETRセーフハーバーやCbCRセーフハーバーとは異なり、「計算を省略する制度」ではありません。あくまで、通常のGloBE計算の中で、特定の税制優遇の影響をどのように評価するかという技術的な枠組みです。そのため、SBTIを検討する局面では、税制優遇の内容、適用要件、会計処理、実際の事業活動との関係を、従来以上に丁寧に整理する必要があります。

 

【誤解しやすいポイント】


最後に、SBTIセーフハーバーについて、企業実務で特に誤解されやすい点を整理しておきます。

第一に、「税制優遇があればSBTIに該当する」という誤解です。SBTIは、すべての税制優遇を救済する制度ではありません。実体ある活動との結び付きが説明できなければ、対象外となります。

第二に、「会計上ETRが高ければ問題ない」という誤解です。GloBEでは、会計数値そのものではなく、税負担の変動要因の性質が問われます。会計上の見え方とGloBE上の評価が一致しないケースも少なくありません。

第三に、「SBTIは事務負担を減らす制度」という誤解です。SBTIは計算を簡略化する制度ではなく、むしろ税制優遇の中身や実体を説明するための情報整理が求められます。準備が不十分な場合、かえって説明負担が増す可能性もあります。

SBTIセーフハーバーは、Pillar Two 対応における重要な選択肢である一方、企業の実体と税務の関係を可視化する力が問われる制度でもあります。経理・税務部門としては、単なる計算対応にとどまらず、自社の事業活動と税制優遇の関係を説明できる体制づくりが、今後ますます重要になるといえるでしょう。
 
以上
 
文責:BDO 税理士法人 BEPS チーム
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