【BEPS ジャーナル】第六回             移行期間CbCRセーフハーバー(TCSH)の延長と出口戦略

【BEPS ジャーナル】第六回 移行期間CbCRセーフハーバー(TCSH)の延長と出口戦略
― 経過措置を「効果的に活用する」ための実務的視点 ―

はじめに

グローバル・ミニマム課税 (Pillar Two)への対応が本格化する中、TCSHは、多くの日本企業にとって初年度から数年間の実務負担を大きく軽減する制度として位置付けられています。限られた人員やデータ整備状況を前提とすれば、TCSHを活用するという判断は、実務的にも合理性のある選択といえるでしょう。
一方で、TCSHはあくまで経過的な簡便措置であり、恒久的な制度ではありません。適用期間が延長されたからといって、将来にわたってPillar Two対応を回避できるわけではなく、むしろ「次のステップに進むための準備期間が与えられた」と理解することが重要です。本稿では、TCSH延長の背景を整理したうえで、適用期間中に企業が取り組むべき実務対応、そして出口を見据えた考え方について解説します。

 


1.TCSH延長の政策的背景

  TCSHは、国別報告書(CbCR)に基づく一定の指標を用いて、トップアップ税の計算を簡便的に免除する仕組みです。その導入趣旨は、Pillar Two導入初期において、企業および税務当局双方の実務負担を軽減する点にあります。
延長が認められた背景には、各国での法制化の進捗状況や、企業側のデータ整備・システム対応が必ずしも十分とは言えないという現実があります。Pillar Twoは、従来のコンプライアンス業務とは異なるデータや計算ロジックを前提としており、短期間で完全な対応体制を構築することは容易ではありません。
もっとも、延長措置は制度の恒久化を意味するものではありません。OECDが示しているのは、あくまで本則GloBE計算への円滑な移行を目的とした「猶予期間」であり、TCSHはそのための橋渡しにすぎないという点を、企業側も正しく理解する必要があります。

 


2.TCSH適用中に準備すべき実務対応

  TCSHを適用している期間は、実務対応を先送りにできる期間ではなく、将来に向けた準備を進めるべき重要なフェーズです。TCSHを選択しているからといって、Pillar Two対応を全く検討しない状態が続くことは、かえってリスクを高める可能性があります。

TCSHと簡易ETR1 の違い
TCSHは、CbCRの集計情報を用いてトップアップ税計算を免除する、導入初期向けの簡便的な経過措置です。一方、簡易ETRセーフハーバーは、会計・税務データに基づき実効税率を算定する仕組みで、本則GloBE計算に近い考え方を採用しています。TCSHが「最低限の情報で負担を軽減する制度」であるのに対し、簡易ETRは「将来の本則対応を見据えた移行段階の制度」と位置付けられます。
TCSHの適用においては、CbCRベースで把握している数値と、GloBE計算で必要となる会計・税務データとの間に、どのような乖離があるのかを把握することが重要です。国・地域ごとに見た場合、将来的にTCSHの要件を満たさなくなる可能性がある子会社や、簡易ETRあるいは通常のGloBE計算に移行した際に影響が大きくなる拠点を、早期に洗い出しておくことが望まれます。
また、データ収集体制についても、TCSH適用中から段階的に整備を進めることが有効です。どの部門が、どのタイミングで、どのレベルのデータを提供するのかといった点を整理しておくことで、将来の本則対応における混乱を抑えることができます。

 


3.簡易ETRへの移行を見据えた考え方

  TCSHの次に想定される選択肢として、多くの企業が意識するのが簡易ETRセーフハーバーです。簡易ETRは、TCSHに比べてより詳細な情報を必要とするものの、本則GloBE計算に近い考え方に基づく制度であり、移行段階としての位置付けを持ちます。
簡易ETRへの移行にあたっては、恒久差異や一時差異といった論点が顕在化し、TCSH適用時には意識されなかった税務上の調整が必要となる場合があります。そのため、すべての国・子会社について一律に移行を進めるのではなく、影響の大きさやリスクの程度に応じて、段階的に対応するという実務的なアプローチが現実的です。
TCSHから簡易ETR、さらには本則GloBE計算へと、どのような順序で対応を進めるのかについて、あらかじめ社内で共通認識を持っておくことが重要になります。

 


4.TCSHに過度に依存するリスク

  TCSHは有効な制度である一方、これに過度に依存し続けることには注意が必要です。制度終了時に十分な準備が整っていない場合、短期間で本則対応を求められ、結果として実務負担が急増する可能性があります。
また、なぜTCSHを選択しているのか、その判断根拠やリスク認識を、経営層や社内関係者に説明できない状態は、税務ガバナンスの観点からも望ましくありません。TCSHは「時間を稼ぐ制度」であり、その時間をどのように使ったのかが、将来の対応力を左右します。

 


おわりに

  TCSHは、Pillar Two初期対応において多くの企業を支える重要な制度です。しかし、それはあくまで通過点であり、最終的なゴールではありません。延長された期間を有効に活用し、次のステップに向けた準備を着実に進めることが、将来の実務負担やリスクを抑えることにつながります。
次回は、Substance-based Tax Incentiveセーフハーバーを取り上げ、セーフハーバー制度全体の理解をさらに深めていきます。

以上
 
文責:BDO 税理士法人 BEPS チーム。
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1 簡易ETR(簡易実効税率セーフハーバー)は、会計・税務データに基づいて実効税率を算定し、一定要件を満たす場合にトップアップ税計算を免除する制度であり、本則GloBE計算に近い考え方を採用しており、TCSHからの移行段階として位置付けられる。