シンガポール:知的財産権に関する税務上の取扱いを明確化

(BDO Global Newsletter – 2026年8月)

【BDO Global Newsletter】
シンガポール内国歳入庁(Inland Revenue Authority of Singapore、以下「IRAS」)は、知的財産権(Intellectual Property Rights:IPRs)に係る税務上の償却控除(writing-down allowance) の適用を受ける納税者向けに重要なガイダンスの明確化を行った。
今回の改訂は、知的財産権に係る適格支出額の算定において納税者が直面していた実務上の課題に対し、より高い予見可能性および法的確実性を提供するものである。
一方で、コンプライアンス体制、評価手法および文書化に対するIRASの期待水準は大きく引き上げられている。
 

主な明確化事項

 

市場価格が存在しない場合の評価方法


IRASは、知的財産権の時価(Open Market Value)を容易に把握できない状況に関するガイダンスを明確化した。
このような場合、納税者および評価専門家は、健全な評価手法を採用するとともに、関連する経済的・商業的要因を考慮することが求められる。
特に、独自性の高い知的財産権や専門性の高い知的財産権、あるいは社内で開発された知的財産権については、市場における比較対象取引が限定的、または存在しないことも多く、適切な評価アプローチが重要となる。
 

事業買収時における取得対価の配分


事業買収や複数資産を一括取得する取引において、IRASは取得対価を厳密かつ合理的に配分することを明示的に要求した。
企業は取得対価のうち、知的財産権に帰属する価値を適切に区分するとともに、税務上の適格知的財産権と非適格知的財産権を明確に区別しなければならない。
これにより、シンガポール所得税法第19B条 に基づく税務上の償却控除が適格資産のみに適用されることを確保し、適格IPへの過大な価値配分が行われるリスクを低減することが目的とされている。
 

国際的な評価基準の採用


改訂ガイダンスでは、国際評価基準(International Valuation Standards:IVS)をはじめとする国際的に認知された評価フレームワークが正式に認められた。
これにより、次のようなメリットが期待される。
•    評価手法に関する明確な基準の提供
•    国際的なベストプラクティスとの整合性向上
•    IRASによるレビュー時における評価報告書の説明責任および防御可能性の向上
 

将来の開発価値の除外


今回の改訂において特に重要な点として、将来創出される知的財産権に帰属する価値を評価対象から除外すべきことが明確化された。
評価額は取得日時点で存在している知的財産権のみを対象としなければならない。
その結果、以下のような将来価値については償却控除の対象とならない。
•    将来の機能強化や改良
•    知的財産開発パイプライン
•    将来的に発生することが見込まれる知的財産価値
•    条件付きまたは潜在的な知的財産権価値
この点は、M&Aや知的財産権の取得スキームを検討する企業にとって重要な影響を及ぼす可能性がある。
 

企業への実務上の影響


企業は以下の事項について改めて確認する必要がある。
  • 評価プロセスの厳格化
    評価報告書は、IRASの期待水準および国際的な評価基準に整合したものでなければならない。
  • 取得対価配分の妥当性確保
    特にM&A取引においては、取得対価を各資産へ合理的かつ説明可能な形で配分することが重要となる。
  • 将来価値の除外
    将来の知的財産権価値が税務上の対象から除外されることにより、買収価格の設定や税務モデリングに影響が生じる可能性がある。
  • 文書化の重要性
    税務調査やレビューへの対応を見据え、評価の前提条件や算定プロセスを十分に文書化することが不可欠である。


また、IRASは評価報告書の作成・要件についても明確化しており、
•    関連者間取引:1,000万シンガポールドル超 (約12億4,000万円超)
•    第三者間取引:4,000万シンガポールドル超 (約49億6,000万円超)
の取引については、評価報告書の作成が必須となる。


BDOの見解


今回のガイダンス改訂は、知的財産権に関連する税務上の取扱いにおいて、IRASが引き続き「実態」「評価の妥当性」および「検証可能性」を重視していることを示している。
改訂により一定の明確性は提供されたものの、納税者に求められる水準はこれまで以上に高くなっている。特に、M&A取引やクロスボーダー取引を通じて知的財産権へ投資する企業は、評価手法および文書化体制を見直し、IRASの要件への完全な準拠を確保するため、評価手法および文書化体制を再検証すべきである。

(著)
Evelyn Lim
Loke Yew Ken
Wong Sook Ling
BDOシンガポール

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  Writing-down allowance(税務上の償却控除)
シンガポール所得税法第19B条に基づき、企業が取得した適格知的財産権(IPR)の取得価額について、一定期間にわたり税務上の損金算入を認める制度である。取得した知的財産権の価額を5年、10年または15年で均等償却することが認められている。
引用先:IRAS | Writing-Down Allowances for Intellectual Property Rights (IPRs)

  Section 19B Allowance(所得税法第19B条に基づく控除)
シンガポール所得税法第19B条に基づく知的財産権取得費用の税務上の控除制度を指す。対象となる知的財産権には、特許権、商標権、著作権、登録意匠、営業秘密等が含まれる。
引用先:etaxguides_iprs-valuation-report-for-purposes-of-section-19b-of-the-ita.pdf

 

※本記事はBDO Singaporeが提供するTax Newsletter「Singapore - Claims on Intellectual Property Rights: Greater Certainty, Higher Expectations - BDO」の日本語訳です。用語や表現に対するチェックを行っていますが、正確性や完全性を保証するものではありません。正確な情報は原文記事(英語)をご確認ください。