州政府が歳入確保を強化し税務調査を高度化する中、米国向けにリモートで販売を行う企業にとって、コンプライアンスリスクはもはや、事務所・従業員・店舗といった従来の存在基準の有無によって判断されるものではなくなっている。これに代わり、各州は在庫の所在、デジタル上の接触、リモートワークの労働力、およびプラットフォーム型のビジネスモデルに基づいてネクサス(nexus:課税拠点)を主張しており、その適用方法は、必ずしも直感的ではなく、州ごとに一貫性を欠く場合が多い。
近時の判例、立法変更および執行傾向は、各州が単にネクサス概念を拡張しているのみならず、その限界を試していることを示している。明確な数値基準(bright line threshold)は上限ではなく下限として扱われる傾向が強まっており(安全域ではなく最低基準とみなされる傾向がある)、マーケットプレイスはマーケットプレイス法施行前期間についても徴収責任を負う可能性があり、さらにクッキーなどのデジタル上の痕跡がネクサス成立の契機となり得る。本稿では、米国向けにリモート販売を行う企業が、想定外の課税処分および州横断的な課税リスクの拡大を回避するために検討すべき主要なネクサスおよび課税関係の論点を概説する。
注意を要する新たなネクサスの罠
在庫ネクサス
マーケットプレイスプラットフォームを通じて販売を行う小売業者は、通常、自らが在庫の所有権を保持したまま、保管、受注処理および顧客への配送をマーケットプレイス運営事業者に委託する。この枠組みにおいては、効率的な物流処理のため在庫の保管場所は運営事業者が決定する一方、商品が販売されるまでは販売者がその所有者であり続ける。
販売者は州内に物理的に所在する有体動産(tangible personal property)を所有しているため、在庫の存在はしばしば売上税ネクサスの成立に十分とされる。この見解に沿い、Streamlined Sales Tax Governing Board1の資料および各州のガイダンスは、第三者のフルフィルメント事業者が在庫を保管・管理しているという州内での唯一の活動のみでも、約20州において売上税ネクサスが成立し得ることを示している。
もっとも、すべての州が第三者管理の在庫をネクサス成立要因として扱うわけではない。一部の州では、保管場所が完全に第三者により選定・管理され、販売者が関与しない場合には、在庫のみで売上税ネクサスは成立しないとするガイダンスが公表されている。例えば、オクラホマ州の最近の裁定では、販売者の州内での存在が第三者倉庫に保管された在庫のみであり、当該在庫に対して販売者が管理権を行使していない場合、物理的ネクサスは成立しないとされた。また、当該販売者の自社ウェブサイト経由の直接販売は、同州の10万米ドルの経済的ネクサス基準を下回っており、徴収義務も生じなかった。他方、マーケットプレイス経由の売上については徴収および納付義務はマーケットプレイス運営事業者に帰属するとされた。
マーケットプレイスを利用する小売業者は、統一的なネクサス基準の存在を前提とすべきではなく、在庫の所在や販売活動が売上税ネクサスまたは他の税目におけるネクサスを生じ得るかを評価するため、州ごとのガイダンスを定期的に検討すべきである。
在庫ネクサスの波及効果
第三者フルフィルメントセンターに在庫を保管するマーケットプレイスを通じた販売は、売上税の徴収・納付義務をリモート販売者からマーケットプレイス運営事業者へ移転する可能性があるが、販売者の他の州税および地方税上の義務を免除するものではない。実務上、リモート販売者は、マーケットプレイス運営事業者による売上税対応によって自社の州税義務が全て履行済みであると誤認し、売上税以外の義務を見落とす場合が多い。
例えば、2025年のカリフォルニア州の事案において、租税不服審判所(Office of Tax Appeals:OTA)は、従業員、事務所その他の物理的活動を有しない州外小売業者であっても、カリフォルニア州内のAmazonフルフィルメント倉庫に在庫を保管して販売していることにより、フランチャイズ税の観点から「事業を行っている」と認定した。また当該判断は、州税当局がマーケットプレイス運営事業者や第三者フルフィルメント事業者から情報を取得し、州内在庫を有するリモート販売者を特定し得る点も示唆している。本決定は、第三者フルフィルメント事業者に保管された在庫がネクサス判定上販売者に帰属するとし、在庫のみの存在によって所得税/フランチャイズ税、総収入税その他の税目の義務が生じ得ることを確認している。
リモート販売者は、マーケットプレイスによる売上税徴収が他の税務義務を消滅させると前提すべきではない。在庫の所在の変動を継続的に把握し、マーケットプレイスおよびフルフィルメント契約を検証した上で、在庫が所得税、フランチャイズ税その他の州税のネクサスを生じさせるか評価する必要がある。
揺らぐ明確なネクサス基準(Bright-Line Nexus Rules)
2026年時点で、十数州において法人純所得税のネクサスに関する明確基準(bright line)が導入されており、州内売上高や州内給与額または資産額に基づき経済的ネクサスの閾値が定められている。他方、多くの州はこれとは異なるより広範なアプローチを採用し、州内で事業を行っている場合または州内源泉の所得を得ている場合にネクサスを主張する。リモート企業にとって、この明確基準と広範な「事業活動」基準との乖離により、明確なネクサス基準をセーフハーバーと誤認することで想定外の課税リスクが生じ得る。
別のカリフォルニア州事案では、州内に1名のみ従業員を有する場合であっても、その報酬が明確なネクサス基準を下回っていても、「州内で事業を営んでいる」と認定され、フランチャイズ税申告義務が課され得ることが示された。実務上、リモート企業は給与額などの明確なネクサス基準を下回る場合にはネクサスが成立しないと誤解することが多いが、当該事案が示すとおり、カリフォルニア州の明確なネクサス基準はセーフハーバーではない。企業は州内で経済的利益を得るための取引活動に実質的に関与しているかを検討する必要がある。州内資産や従業員以外の販売活動がない場合でも、OTAは「事業活動」基準が満たされると判断しており、分散型の労働力を有するリモート販売者において意図しない所得税申告・納付義務が生じ得ることを示している。
「クッキー・ネクサス」の新たな動向
小売業者は、顧客行動の把握、オンライン取引の円滑化、マーケティング分析、パーソナライズ、詐欺防止および製品開発等の機能のために、自社のウェブサイトやデジタルプラットフォーム上でインターネットクッキーを利用する場合がある。各州は、これらの顧客とのデジタル上の相互作用がネクサス成立に十分であると主張する傾向を強めている。
2021年、州間租税委員会(Multistate Tax Commission:MTC)は、企業がウェブサイトまたはモバイルアプリを通じて顧客と相互作用する場合、当該企業は顧客所在州において事業活動を行っている可能性があると表明した。MTCによれば、州内顧客のデバイスにクッキーを保存・設置し、有体動産の注文誘引、生産計画や在庫水準の調整、新製品の開発、販売商品の拡充に利用する情報を収集する行為がこれに含まれる。
さらに最近では、MTC関係者は、州内におけるクッキーの利用に基づくネクサス主張を各州が積極的に進める可能性が高いと指摘している。この見解は、2025年の連邦控訴裁判所判決により補強され得る。同判決は、カリフォルニア州の消費者のデバイスに設置されたトラッキングクッキーが、プライバシー訴訟における対人管轄権の基礎となり得ると判断したものである。当該判断は税務を対象としたものではないが、その論理はネクサス判断におけるデジタル接点の評価に影響を与え得る。他方、マサチューセッツ州最高司法裁判所は、Wayfair判決以前の期間について、デジタルまたはクッキーのみの接点しか有しない州外小売業者には、売上税・使用税の徴収に必要な物理的存在は認められないと判示している。このように不確実性が存在し州ごとの立場も変化しているため、企業はネクサスに関する税務調査の強化に備えて能動的に対応する必要がある。
マーケットプレイス関連の遡及適用に関する責任
現在、全ての売上税課税州およびコロンビア特別区において導入されているマーケットプレイス運営事業者法は、物理的または仮想的なマーケットプレイスを運営する事業者に対し、プラットフォーム上の販売者に代わって売上税を徴収・納付することを義務付けている。これにより、徴収責任は個々の小売業者からマーケットプレイス運営事業者に移転し、徴収・報告は集中化され、経済的ネクサス基準を満たさない販売者にも徴収義務が及び、州の処理すべき申告件数も削減される。
注目すべき点として、一部の州は、Wayfair判決以前の法令においても同様の徴収義務が既に課されていたと主張し、マーケットプレイス法は実質的な変更を伴うものではなく、既存法の明確化にすぎないと位置付けている。この考え方に沿い、最近の裁判例では、特定のマーケットプレイス法の制定以前の期間についてもオンラインマーケットプレイスに売上税徴収義務があったと判断されている。
マーケットプレイス運営事業者は通常、マーケットプレイスまたはプラットフォームを所有または運営し、販売者に代わって直接または間接に取引処理を行う主体として定義される。州ごとに定義は異なり、広範に規定されている場合もあるため、自らを運営事業者と認識していない企業であっても、決済処理に直接関与していなくても該当する可能性がある。
これらの規定を認識していない企業は、売上税の徴収・納付や申告を怠っている可能性があり、その場合は時効が進行しないままとなり、過年度に遡る重大なリスクが生じる。企業は、自社の活動が各州においてマーケットプレイス運営事業者としての義務を生じさせるかを速やかに検証し、該当する場合には執行措置が講じられる前に是正対応を検討する必要がある。
課税区分の誤った分類
税務調査またはデューデリジェンスにおいて、企業は自社製品の性質および機能に対する理解と、課税当局または第三者による分類が異なることを認識する場合がある。この分類の相違は売上税の取扱いに重大な影響を及ぼす。
例えば、温度測定機能を有するウェアラブル端末は、ある当事者により温度計として分類され、適格医療機器として非課税または限定的な州でのみ課税対象とされ得る。他方、同一デバイスが歩数計測、心拍数モニタリング、睡眠分析または交換可能なバンドなどの追加機能を有する場合、より広範な消費者向け電子機器またはフィットネス機器として分類される可能性がある。この場合、より多くの州において課税対象となる可能性がある。
このような分類差異は、売上税計算システムにおける商品コード設定の誤りによってさらに拡大する。機能理解が不十分なまま商品が特定の税区分に紐付けられると、本来認められない免税措置または軽減税率が適用されてしまう可能性がある。売上税計算システムはリアルタイムでの機能分析ではなく事前の課税分類に依存するため、誤分類は取引および州を跨って継続的に反復適用される。その結果、課税対象州において一貫した税額過少徴収が生じ、税務調査のリスクが増大し、問題発覚後の是正対応が複雑化する。
このような状況は時間の経過に伴い体系的な過少徴収につながり得るため、企業は製品分類を定期的に見直し、売上税計算システムの課税分類を検証し、製品の進化に応じて再評価する必要がある。
BDOの見解
本稿で述べた動向は、米国各州がますます限定的・間接的・デジタルな接点に基づいて課税義務を主張し、税目およびデータソースを横断して執行を連携させていることを示している。リモート販売者にとって、2026年は後追い的な是正ではなく、能動的な見直しを行うべき年である。具体的には、在庫の所在の把握、全ての関連税目におけるネクサスの再評価、商品の課税区分および売上税エンジンの検証、ならびにマーケットプレイスおよびフルフィルメント契約の再検討が求められる。
過年度リスクを有する企業は、自主開示制度(Voluntary Disclosure Agreement)等の是正手段を、税務調査またはデータ照合により問題が顕在化する前に検討する必要がある。これらのリスクに早期に対応することにより、コンプライアンスリスクの管理、事業運営の柔軟性の維持および成長の確保が可能となる。
著者:
Angela Acosta
Ilya Lipin
(BDO USA)
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1 Streamlined Sales Tax Governing Board:米国の複数州が共同で設立した機関であり、州間で複雑化している売上税・使用税制度を簡素化・標準化することを目的とした「Streamlined Sales and Use Tax Agreement(SSUTA)」の運営・管理を担う。加盟州の代表で構成され、税制の統一ルールの整備、ガイダンスの公表、適合性の判定などを行っている。
【引用先】
・Streamlined Sales Tax Governing Board, Inc.
※ 本記事はBDO USが提供するTax Newsletter「United States - Emerging State Tax Issues for Remote Businesses Selling into the US」の日本語訳です。用語や表現に対するチェックを行っていますが、正確性や完全性を保証するものではありません。正確な情報は原文記事(英語)をご確認ください。
