概要
・Bill C-15は、カナダの移転価格ルールを近代化し、OECDガイダンスと正式に整合させるものである。・CRA(カナダ歳入庁)は、取引の再特徴付けまたは否認を行う権限を拡大される。
・文書提出期限は、書面による要求後、従来の3か月から30日に短縮される。
・文書化要件は、経済的に関連する特性および取引実態に関する包括的な分析を含むものへと拡大される。
・ペナルティの適用閾値は、1,000万ドルまたは総収益の10%のいずれか低い方に引き上げられる。
2025年の連邦予算において、カナダの財務大臣は移転価格ルールの大幅な改正を提案した。これらの変更を含むBill C-15は、2025年11月18日に下院に提出されたが、現時点では成立していない。本稿は、提案されている変更点を概括的に整理するものである。非居住の関連者との取引を有する企業は、これらの変更が自社の移転価格方針に与える影響を検討すべきである。なお、簡略化のため本稿では企業および企業間取引を対象としているが、移転価格ルールは関連当事者との越境取引を有するすべての納税者およびパートナーシップに適用される。
本改正は、1997年に所得税法第247条が導入されて以来の重要な制度改革であり、多国籍企業におけるグループ内取引の構築、文書化、および防御(立証・弁明)の方法に重大な影響を及ぼすと見込まれる。これらの規則は2025年11月4日以降に開始する課税年度に適用される予定であり、OECDの移転価格ガイドラインとの整合を目的とするものである。これにより、関連当事者間の国際取引を行う企業は、グループ内価格が経済状況、機能、資産、およびリスク配分を適切に反映していることを確保する必要がある。
企業グループにおける直ちに対応すべき事項
・機能分析の見直しグループ内取引に関する当事者の実際の行動、意思決定権限、および経済的実態を明確化するため、機能分析を更新する必要がある。
・同時文書および関連プロセスの強化
拡大された文書化要件に対応するため、既存の同時文書および関連プロセスを強化し、CRAからの書面要求日から30日以内に提出できる税務調査対応体制を整備する必要がある(従来は3か月)。
・グループ内契約の見直し
契約条件が商業的実態を適切に反映していることを確保するため、契約内容を見直し・修正する必要がある。
・高リスクなストラクチャーの評価
低リスクエンティティ、知的財産ライセンス、管理費の請求、債務ファイナンス、コスト分担などの高リスクと評価され得るストラクチャーについて評価を行う必要がある。
・税務調査対応体制の整備
CRAの裁量権および情報収集権限の拡大に対応するため、税務調査対応の準備を進める必要がある。
移転価格ルールの主要な改正点
Bill C-15に基づく改正は、カナダの移転価格制度を近代化し、CRAの権限を拡大するものである。これらの変更は実態重視、文書化の強化、そしてOECDガイダンスとの整合性の向上に焦点を当てている。企業は、現行の移転価格方針および関連文書の見直しを迫られる可能性がある。デリネーション・ファースト・フレームワーク¹の導入
Bill C-15は、OECDに整合した二段階の分析プロセスを所得税法に直接組み込むものである。ステップ1:取引の実際の条件の特定
納税者は、契約条件、機能プロファイル、リスク管理、資産の使用、経済環境、および事業戦略を含む経済的に関連する特性を評価する必要がある。
ステップ2:独立企業間条件との比較
CRAは、独立企業間で合意されたであろう条件と異なる結果について否認することができる。これにより、より詳細な機能分析および実態に基づく証拠が必要となる。形式のみに依拠することは困難となり、提案されたルールでは形式より実態が重視される。
再分類および調整権限の拡大
Bill C-15は、CRAに以下の権限を付与する。・支払の性質を変更すること(例:サービスフィーをロイヤリティに再分類すること)
・国外関連取引を、独立企業間で成立したであろう取引に置き換えること
・独立企業間条件においては当該取引自体が成立しなかったと結論付けること
・従来は、CRAによる取引の否認または代替取引への置換の権限には制約があった
企業は、特にリスク配分、資金調達取引、コスト分担契約、知的財産の所有構造について、より詳細な裏付けおよび文書化が求められることになる。
OECD移転価格ガイドラインとの整合性
Bill C-15は、カナダの移転価格制度のすべての側面をOECD移転価格ガイドラインと整合的に解釈することを法令上の要請として明文化するものである。従来、カナダの裁判所はOECDガイダンスを参考にはしていたが、法的拘束力は認めていなかった。これにより、以下の点についてより厳格な検討が行われる可能性がある。
・現実的に利用可能な選択肢
・リスクの適切な特定
・経済的に重要な意思決定の支配
・実態に基づく利益配分
文書化要件の拡大および期限短縮
文書化要件は大幅に強化される。・文書提出期限は、CRAからの書面要求後、3か月から30日に短縮される
・経済的に関連する特性および取引の正確な認定(デリネーション)に関する分析の拡充が求められる
企業は、書面要求から30日以内に提出可能な包括的文書を整備する必要がある。不十分な文書しか提出できない場合、更正に伴う移転価格調整に対して最大10%のペナルティが課されるリスクが高まる。
なお、Bill C-15は一定の小規模納税者向けに簡素化された文書制度を導入しているが、その詳細は未定である。
ペナルティ閾値の引き上げ
移転価格ペナルティの適用基準は、以下のいずれか低い額に引き上げられる。・移転価格更正金額1,000万ドル
・総収益の10%
従来は、500万ドルまたは総収益の10%のいずれか低い額であった。
総収益が5,000万ドルから1億ドルの企業については、ペナルティの適用対象となる範囲に含まれる可能性がある。一方、総収益が5,000万ドル未満または1億ドル超の企業について変更はない。
CRAの税務調査権限の強化
Bill C-15は、国内外における情報取得権限を強化するものであり、外部分析でも指摘されているCRAの権限拡大の動向と整合するものである。企業は、より迅速な税務調査、広範な情報要求、および正式な文書提出命令の増加を想定する必要がある。
定義の更新および技術的改正
Bill C-15は、所得税法第247条第1項における以下の定義を見直しまたは置き換える。・移転価格所得更正
・移転価格所得相殺調整
・独立価格配分および移転価格等の既存定義の削除
これらの変更は、提案されている調整メカニズムおよび拡張された文書化要件を裏付けるものである。
著者:
BDO Canada
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¹ デリネーション・ファースト・フレームワーク(Mandatory delineation-first framework):移転価格分析において、まず当事者間取引の「実態」および「経済的に関連する特性」を踏まえて当該取引の性質を正確に認定(デリネーション)し、その上で独立企業間条件(arm’s length principle)との比較を行うことを義務付ける分析手法を指し、OECD移転価格ガイドラインにおける「正確な取引認定(accurate delineation」の考え方に基づくものとなる。
【引用先】
・OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations | OECD
・INTM440201 - Transfer Pricing: Types of transactions: difference between accurate delineation and disregard - HMRC internal manual - GOV.UK
※ 本記事はBDO Canadaが提供するTax Newsletter「Canada’s proposed transfer pricing reforms: What businesses need to know」の日本語訳です。用語や表現に対するチェックを行っていますが、正確性や完全性を保証するものではありません。正確な情報は原文記事(英語)をご確認ください。
